医療ソーシャルワーカーとは?
医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker : MSW)は、病気によって生じる、患者様とその家族に関わる経済的・社会的・心理的な悩みなどの相談を受け、社会福祉の専門家として面談を通じて問題解決のお手伝いをします。
MSWは主に医療機関や施設などで働いています。医師、看護師、リハビリスタッフとともにチーム医療の一員として、さまざまな援助を行っています。
例えば、「病気になって介護が必要になってしまった。」「急な入院で医療費の支払いが不安。」「他の病院や施設の情報を知りたいけどわからない。」といった相談に応じています。
医療ソーシャルワーカー業務指針
〔厚生労働省保健局長通知 平成14年11月29日 健康発第1129001号〕
一 趣 旨
少子・高齢化の進展、疾病構造の変化、一般的な国民生活水準の向上や意識の変化に伴い、国民の医療
ニーズは高度化、多様化してきている。また、科学技術の進歩により、医療技術も、ますます高度化し、専
門化してきている。このような医療をめぐる環境の変化を踏まえ、健康管理や健康増進から、疾病予防、治
療、リハビリテーションに至る包括的、継続的医療の必要性が指摘されるとともに、高度化し、専門化する
医療の中で患者や家族の不安感を除去する等心理的問題の解決を援助するサービスが求められている。
近年においては、高齢者の自立支援をその理念として介護保険制度が創設され、制度の定着・普及が進め
られている。また、老人訪問看護サービスの制度化、在宅医療・訪問看護を医療保険のサービスと位置づけ
る健康保険法の改正等や医療法改正による病床区分の見直し、病院施設の機能分化も行われた。さらに、民
法の改正等による成年後見制度の見直しや社会福祉法における福祉サービス利用援助事業の創設に加え、平
成15年度より障害者福祉制度が、支援費制度に移行するなどの動きの下、高齢者や精神障害者、難病患者
等が、疾病をもちながらもできる限り地域や家庭において自立した生活を送るために、医療・保健・福祉の
それぞれのサービスが十分な連携の下に、総合的に提供されることが重要となってきている。また、児童虐
待や配偶者からの暴力が社会問題となる中で、保健医療機関がこうしたケースに関わることも決してまれで
はなくなっている。
このような状況の下、病院等の保健医療の場において、社会福祉の立場から患者のかかえる経済的、心理
的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る医療ソーシャルワーカーの果たす役割に対す
る期待は、ますます大きくなってきている。
しかしながら、医療ソーシャルワーカーは、近年、その業務の範囲が一定程度明確となったものの、一方
で、患者や家族のニーズは多様化しており、医療ソーシャルワーカーは、このような期待に十分応えている
とはいい難い。精神保健福祉士については、すでに精神保健福祉士法によって資格が法制化され、同法に基
づき業務が行われているが、医療ソーシャルワーカー全体の業務の内容について規定したものではない。
この業務指針は、このような実情に鑑み、医療ソーシャルワーカー全体の業務の範囲、方法等について指
針を定め、資質の向上を図るとともに、医療ソーシャルワーカーが社会福祉学を基にした専門性を十分発揮
し業務を適正に行うことができるよう、関係者の理解の促進に資することを目的とするものである。
本指針は病院を始めとし、診療所、介護老人保健施設、精神障害者社会復帰施設、保健所、精神保健福祉
センター等様々な保健医療機関に配置されている医療ソーシャルワーカーについて標準的業務を定めたもの
であるので、実際の業務を行うに当たっては、他の医療スタッフ等と連携し、それぞれの機関の特性や実情
に応じた業務のウェート付けを行うべきことはもちろんであり、また、学生の実習への協力等指針に盛り込
まれていない業務を行うことを妨げるものではない。
二 業務の範囲
医療ソーシャルワーカーは、病院等において管理者の監督の下に次のような業務を行う。
⑴ 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
入院、入院外を問わず、生活と傷病の状況から生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うた
め、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、患者やその家族からの相談に応
じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。
① 受診や入院、在宅医療に伴う不安等の問題の解決を援助し、心理的に支援すること。
② 患者が安心して療養できるよう、多様な社会資源の活用を念頭に置いて、療養中の家事、育児、教育
就労等の問題の解決を援助すること。
③ 高齢者等の在宅療養環境を整備するため、在宅ケア諸サービス、介護保険給付等についての情報を整
備し、関係機関、関係職種等との連携の下に患者の生活と傷病の状況に応じたサービスの活用を援助す
ること。
④ 傷病や療養に伴って生じる家族関係の葛藤や家族内の暴力に対応し、その緩和を図るなど家族関係の
調整を援助すること。
⑤ 患者同士や職員との人間関係の調整を援助すること。
⑥ 学校、職場、近隣等地域での人間関係の調整を援助すること。
⑦ がん、エイズ、難病等傷病の受容が困難な場合に、その問題の解決を援助すること。
⑧ 患者の死による家族の精神的苦痛の軽減・克服、生活の再設計を援助すること。
⑨ 療養中の患者や家族の心理的・社会的問題の解決援助のために患者会、家族会等を育成、支援するこ
と。
⑵ 退院援助
生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うた
め、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、退院・退所後の選択肢を説明
し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。
① 地域における在宅ケア諸サービス等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下
に、退院・退所する患者の生活及び療養の場の確保について話し合いを行うとともに、傷病や障害の状
況に応じたサービスの利用の方向性を検討し、これに基づいた援助を行うこと。
② 介護保険制度の利用が予想される場合、制度の説明を行い、その利用の支援を行うこと。また、この
場合、介護支援専門員等と連携を図り、患者、家族の了解を得た上で入院中に訪問調査を依頼するな
ど、退院準備について関係者に相談・協議すること。
③ 退院・退所後においても引き続き必要な医療を受け、地域の中で生活をすることができるよう、患者
の多様なニーズを把握し、転院のための医療機関、退院・退所後の介護保険施設、社会福祉施設等利用
可能な地域の社会資源の選定を援助すること。なお、その際には、患者の傷病・障害の状況に十分留意
すること。
④ 転院、在宅医療等に伴う患者、家族の不安等の問題の解決を援助すること。
⑤ 住居の確保、傷病や障害に適した改修等住居問題の解決を援助すること。
⑶ 社会復帰援助
退院・退所後において、社会復帰が円滑に進むように、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、次の
ような援助を行う。
① 患者の職場や学校と調整を行い、復職、復学を援助すること。
② 関係機関、関係職種との連携や訪問活動等により、社会復帰が円滑に進むように転院、退院・退所後
の心理的・社会的問題の解決を援助すること。
⑷ 受診・受療援助
入院、入院外を問わず、患者やその家族等に対する次のような受診、受療の援助を行う。
① 生活と傷病の状況に適切に対応した医療の受け方、病院・診療所の機能等の情報提供等を行うこと。
② 診断、治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合に、その理由となっている心理
的・社会的問題について情報を収集し、問題の解決を援助すること。
③ 診断、治療内容に関する不安がある場合に、患者、家族の心理的・社会的状況を踏まえて、その理解
を援助すること。
④ 心理的・社会的原因で症状の出る患者について情報を収集し、医師等へ提供するとともに、人間関係
の調整、社会資源の活用等による問題の解決を援助すること。
⑤ 入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合には、これに参加し、経済的、心理的・
社会的観点から必要な情報の提供を行うこと。
⑥ その他診療に参考となる情報を収集し、医師、看護師等へ提供すること。
⑦ 通所リハビリテーション等の支援、集団療法のためのアルコール依存症者の会等の育成、支援を行う
こと。
⑸ 経済的問題の解決、調整援助
入院、入院外を問わず、患者が医療費、生活費に困っている場合に、社会福祉、社会保険等の機関と連携
を図りながら、福祉、保険等関係諸制度を活用できるように援助する。
⑹ 地域活動
患者のニーズに合致したサービスが地域において提供されるよう、関係機関、関係職種等と連携し、地
域の保健医療福祉システムづくりに次のような参画を行う。
① 他の保健医療機関、保健所、市町村等と連携して地域の患者会、家族会等を育成、支援すること。
② 他の保健医療機関、福祉関係機関等と連携し、保健・医療・福祉に係る地域のボランティアを育成、
支援すること。
③ 地域ケア会議等を通じて保健医療の場から患者の在宅ケアを支援し、地域ケアシステムづくりへ参画
するなど、地域におけるネットワークづくりに貢献すること。
④ 関係機関、関係職種等と連携し、高齢者、精神障害者等の在宅ケアや社会復帰について地域の理解を
求め、普及を進めること。
三 業務の方法等
保健医療の場において患者やその家族を対象としてソーシャルワークを行う場合に採るべき方法・留意点
は次のとおりである。
⑴ 個別援助に係る業務の具体的展開
患者、家族への直接的な個別援助では、面接を重視するとともに、患者、家族との信頼関係を基盤とし
つつ、医療ソーシャルワーカーの認識やそれに基づく援助が患者、家族の意思を適切に反映するものであ
るかについて、継続的なアセスメントが必要である。
具体的展開としては、まず、患者、家族や他の保健医療スタッフ等から相談依頼を受理した後の初期の
面接では、患者、家族の感情を率直に受け止め、信頼関係を形成するとともに、主訴等を聴取して問題を
把握し、課題を整理・検討する。次に、患者及び家族から得た情報に、他の保健医療スタッフ等からの情
報を加え、整理、分析して課題を明らかにする。援助の方向性や内容を検討した上で、援助の目標を設定
し、課題の優先順位に応じて、援助の実施方法の選定や計画の作成を行う。援助の実施に際しては、面接
やグループワークを通じた心理面での支援、社会資源に関する情報提供と活用の調整等の方法が用いられ
るが、その有効性について、絶えず確認を行い、有効な場合には、患者、家族と合意の上で終結の段階に
入る。また、モニタリングの結果によっては、問題解決により適した援助の方法へ変更する。
⑵ 患者の主体性の尊重
保健医療の場においては、患者が自らの健康を自らが守ろうとする主体性をもって予防や治療及び社会
復帰に取り組むことが重要である。したがって、次の点に留意することが必要である。
① 業務に当たっては、傷病に加えて経済的、心理的・社会的問題を抱えた患者が、適切に判断ができる
よう、患者の積極的な関わりの下、患者自身の状況把握や問題整理を援助し、解決方策の選択肢の提示
等を行うこと。
② 問題解決のための代行等は、必要な場合に限るものとし、患者の自律性、主体性を尊重するようにす
ること。
⑶ プライバシーの保護
一般に、保健医療の場においては、患者の傷病に関する個人情報に係るので、プライバシーの保護は当
然であり、医療ソーシャルワーカーは、社会的に求められる守秘義務を遵守し、高い倫理性を保持する必
要がある。また、傷病に関する情報に加えて、経済的、心理的、社会的な個人情報にも係ること、また、
援助のために患者以外の第三者との連絡調整等を行うことから、次の点に特に留意することが必要であ
る。
① 個人情報の収集は援助に必要な範囲に限ること。
② 面接や電話は、独立した相談室で行う等第三者に内容が聞こえないようにすること。
③ 記録等は、個人情報を第三者が了解なく入手できないように保管すること。
④ 第三者との連絡調整を行うために本人の状況を説明する場合も含め、本人の了解なしに個人情報を漏
らさないこと。
⑤ 第三者からの情報の収集自体がその第三者に患者の個人情報を把握させてしまうこともあるので十分
留意すること。
⑥ 患者からの求めがあつた場合には、できる限り患者についての情報を説明すること。ただし、医療に
関する情報については、説明の可否を含め、医師の指示を受けること。
⑷ 他の保健医療スタッフ及び地域の関係機関との連携
保健医療の場においては、患者に対し様々な職種の者が、病院内あるいは地域において、チームを組ん
で関わっており、また、患者の経済的、心理的・社会的問題と傷病の状況が密接に関連していることも多
いので、医師の医学的判断を踏まえ、また、他の保健医療スタッフと常に連携を密にすることが重要であ
る。したがって、次の点に留意が必要である。
① 他の保健医療スタッフからの依頼や情報により、医療ソーシャルワーカーが係るべきケースについて
把握すること。
② 対象患者について、他の保健医療スタッフから必要な情報提供を受けると同時に、診療や看護、保健
指導等に参考となる経済的、心理的・社会的側面の情報を提供する等相互に情報や意見の交換をするこ
と。
③ ケース・カンファレンスや入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合にはこれへの
参加等により、他の保健医療スタッフと共同で検討するとともに、保健医療状況についての一般的な理
解を深めること。
④ 必要に応じ、他の保健医療スタッフと共同で業務を行うこと。
⑤ 医療ソーシャルワーカーは、地域の社会資源との接点として、広範で多様なネットワークを構築し、
地域の関係機関、関係職種、患者の家族、友人、患者会、家族会等と十分な連携・協力を図ること。
⑥ 地域の関係機関の提供しているサービスを十分把握し、患者に対し、医療、保健、福祉、教育、就労
等のサービスが総合的に提供されるよう、また、必要に応じて新たな社会資源の開発が図られるよう、
十分連携をとること。
⑦ ニーズに基づいたケア計画に沿って、様々なサービスを一体的・総合的に提供する支援方法として、
近年、ケアマネジメントの手法が広く普及しているが、高齢者や精神障害者、難病患者等が、できる限
り地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう、地域においてケアマネジメントに携わる
関係機関、関係職種等と十分に連携・協力を図りながら業務を行うこと。
⑸ 受診・受療援助と医師の指示
医療ソーシャルワーカーが業務を行うに当たっては、(4)で述べたとおり、チームの一員として、医師
の医学的判断を踏まえ、また、他の保健医療スタッフとの連携を密にすることが重要であるが、なかでも
二の(4)に掲げる受診・受療援助は、医療と特に密接な関連があるので、医師の指示を受けて行うことが
必要である。特に、次の点に留意が必要である。
① 医師からの指示により援助を行う場合はもとより、患者、家族から直接に受診・受療についての相談
を受けた場合及び医療ソーシャルワーカーが自分で問題を発見した場合等も、医師に相談し、医師の指
示を受けて援助を行うこと。
② 受診・受療援助の過程においても、適宜医師に報告し、指示を受けること。
③ 医師の指示を受けるに際して、必要に応じ、経済的、心理的・社会的観点から意見を述べること。
⑹ 問題の予測と計画的対応
① 実際に問題が生じ、相談を受けてから業務を開始するのではなく、社会福祉の専門的知識及び技術を
駆使して生活と傷病の状況から生ずる問題を予測し、予防的、計画的な対応を行うこと。
② 特に退院援助、社会復帰援助には時間を要するものが多いので入院、受療開始のできるかぎり早い時
期から問題を予測し、患者の総合的なニーズを把握し、病院内あるいは地域の関係機関、関係職種等と
の連携の下に、具体的な目標を設定するなど、計画的、継続的な対応を行うこと。
⑺ 記録の作成等
① 問題点を明確にし、専門的援助を行うために患者ごとに記録を作成すること。
② 記録をもとに医師等への報告、連絡を行うとともに、必要に応じ、在宅ケア、社会復帰の支援等のた
め、地域の関係機関、関係職種等への情報提供を行うこと。その場合、(3)で述べたとおり、プライ
バシーの保護に十分留意する必要がある。
③ 記録をもとに、業務分析、業務評価を行うこと。
四 その他
医療ソーシャルワーカーがその業務を適切に果たすために次のような環境整備が望まれる。
⑴ 組織上の位置付け
保健医療機関の規模等にもよるが、できれば組織内に医療ソーシャルワークの部門を設けることが望ま
しい。医療ソーシャルワークの部門を設けられない場合には、診療部、地域医療部、保健指導部等他の保
健医療スタッフと連携を採りやすい部門に位置付けることが望ましい。事務部門に位置付ける場合にも、
診療部門等の諸会議のメンバーにする等日常的に他の保健医療スタッフと連携を採れるような位置付けを
行うこと。
⑵ 患者、家族等からの理解
病院案内パンフレット、院内掲示等により医療ソーシャルワーカーの存在、業務、利用のしかた等につ
いて患者、家族等からの理解を得るように努め、患者、家族が必要に応じ安心して適切にサービスを利用
できるようにすること。また、地域社会からも、医療ソーシャルワーカーの存在、業務内容について理解
を得るよう努力すること。医療ソーシャルワーカーが十分に活用されるためには、相談することのできる
時間帯や場所等について患者の利便性を考慮する、関連機関との密接な連絡体制を整備する等の対応が必
要である。
⑶ 研修等
医療・保健・福祉をめぐる諸制度の変化、諸科学の進歩に対応した業務の適正な遂行、多様化する患者
のニーズに的確に対応する観点から、社会福祉等に関する専門的知識及び技術の向上を図ること等を目的
とする研修及び調査、研究を行うこと。なお、三(3)プライバシーの保護に係る留意事項や一定の医学
的知識の習得についても配慮する必要があること。
また、経験年数や職責に応じた体系的な研修を行うことにより、効率的に資質の向上を図るよう努める
ことが必要である
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